M&Aでの売買価格の決め方

純資産価額方式

M&Aで企業評価を行う場合に限らず、株式市場で株式を売買する際にも参考にされる「純資産価額」。
株式指標としては、「一株あたり純資産(=BPS)」という指標で表され、一株あたりの純資産が株価の一つの底値とされていることから、株式売買をされている方であれば馴染みのある考え方かもしれません。
その会社の客観的価値は、その会社が持つ純資産を割り込むことはないだろうという考え方に基づくもので、不特定多数のプレイヤーが参加する証券市場でも企業評価の底値の目安とされていることから、M&Aの際の考え方としても、十分説得力のある考え方と言えます。
ではこの純資産を元に企業評価を行う「純資産価額方式」にはどのような特徴があるのでしょうか。

純資産価額方式とは

純資産価額方式は、ある意味においてもっと馴染みやすく、肌感覚としては理解を得られやすい方式といえるかも知れません。
この方式は、対象となる会社や事業の資産から負債を引いた金額、即ち純資産をベースにして譲渡価額を決定しようとするものです。
売買の対象になるものにどれくらいの資産価値があるのかを算定し、資産価値から負債を差し引けばその対象物の価値が決まるとするもので、物販であればもっとも妥当な考え方と言えるでしょう。
一方で、先にご紹介した証券市場でのBPS(一株当たり純資産)という考え方ですが、通常の感覚で考えればその会社の価値が純資産を下回ることは無く、仮にBPSが100円だとすると、株価が100円を下回ることはないだろうと考えられます。
しかし、リーマンショックの影響が冷めやらぬ2009年2月の証券市場では、東証一部上場企業の実に77%で株価が一株あたりの利益を下回るという現象が起こりました。不特定多数の人が特段の意図を持つこと無く企業評価を行う証券市場において、8割の会社が、その会社の純資産の価値も無いと投資家から判断されたことになります。株安の市場環境にあったとは言え、これは純資産という指標を会社の底値として考えることは難しいことを表しているといえます。
これをわかりやすく例えると、現金を10,000円持っている人が友人から3,000円を借りている場合、その人の純粋な所持金額は7,000円であり、その人の財布の評価額は7,000円を下回ることは無いといえるでしょう。
一方、300万円で車を買った人が、その車を買うために手持ちの100万円に加え200万円借金して購入した場合、その人の純資産は100万円とは言えません。100万円は現金として持っていれば100万円ですが、別の資産になった場合の価値評価を買った金額とイコールにすることは出来ないからです。
純資産価額方式は、資産の評価が正しく為されている限りにおいては機能する考え方ですが、事実上それが困難であることに留意する考え方であるといえます。

純資産価額方式のメリットとデメリット

資産と負債を正確に評価しようとした場合、それぞれが現金である場合に限って異論のない正確な評価が成立しますが、会社は実際には様々な形で資産と負債を保有していることから、その説得力に限界があるといえます。税務や会計制度では、会社の持つ資産に様々な評価方式を認めていますが、そのどれもが無数にある資産の正確な市場価値、言い換えれば換金価値を表しているわけではないので、バランスシート上の純資産がその会社の価値と必ずしも一致しないのはある意味で必然といえるでしょう。
第1には、このように正確な資産評価に限界があることが、本方式のデメリットと言えます。
2つ目に、逆に、バランスシート上に記載のある資産しか資産と見なさないことが本方式の大きなデメリットと言えます。
会社が保有している資産は売上と利益を生み出す上での役割の一つに過ぎません。人を教育し月に1000万円売り上げる営業マンに育てても、バランスシート上には「能力」という無形資産の計上は認められておらず、「3年間で1億円の発注契約書」という、確度の高い売上・利益の源泉になる契約書も資産計上することはできません。バランスシートに記載のある資産は会社の価値の一部であり、会社の価値を客観的に正確に表すには、不十分であるといえます。

一方で本方式のメリットはスモールM&Aの際に顕著といえます。
譲渡の対象になる資産がわかり易い有形固定資産中心で、人や知的財産、営業権などと言った評価の分かれるものを対象にしない限りにおいてはもっともシンプルで、売り手と買い手双方にとって納得感のある方式と言えるでしょう。
本業に集中する際に店舗を譲渡する場合や、別地域に進出した飲食店などの撤退の際には正確な譲渡価額を算出しやすい方式であると言えます。

純資産価額方式で価額が決まるケース

本方式で譲渡価額が決定されることがあるM&Aは、有形固定資産が中心でその他の流動資産や無形資産は引き継がない場合といえるでしょう。

具体例を挙げると、理容店を廃業し譲渡したい場合や、飲食店から撤退し本業に集中する場合などが想定できます。
一般にこのようなスモールM&Aでは経営者や従業員は引き継がれず、資産と言えばお店の什器備品や内装・造作物といった有形固定資産がほとんどです。お店がそこにあることによって黙っていてもお客さんが来るような特殊な評価が必要なこともなく、お客さんを呼び寄せてくれる有能な店員も引き継がなければ評価が必要になることもありません。
負債としては、什器などにリース契約などが残っていることが考えられるでしょう。
この場合、M&Aの妥当な評価額は、引き継がれる有形固定資産の評価額から負債を差し引いた金額が正確に実情を表していると言えます。この際に、売り手側としてはバランスシート上に記載のある什器や造作物の価額をそのまま評価して貰うほうが除却損も発生せず理想的ですが、買い手としてはそれぞれの什器備品の状態から考えられる中古価格で評価したいと考えるかもしれません。
いずれにせよ有形固定資産のみの場合であれば、資産価値の評価はそのどちらかになるか、足して2で割るような妥協的な方式で合意することもできるので大きな問題になることはありません。
純資産価額方式がもっとも納得感のある形で機能するM&Aであると言えるでしょう。

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